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2012-11-29

一元化と所得比例の社会保険制度改革

 社会保険を立て直す時の基本戦略は,①制度の一元化,②保険料負担の所得比例化,③皆保険の徹底と,④保険財政の独立,⑤保険の民主的な運営です。たとえば,医療保険を例にとってみましょう。まず必要なことは,制度の一元化です。現在は協会健保や組合健保,国民健保などの制度が並立しています。その上,保険を運営する保険者も数多く存在しています。しかも,国民はそれらを自由に選択しているわけではありません。社会保険の基本に立ち戻るならば,つまりリスクや費用をシェアするならばその規模は大きいほうがいい。
 単一の制度に組み替えるべきでしょう。保険料はどこでも同じであるべきだということです。ただし,保険者に関しては現在の市町村単位であることが望ましいと思ってます。このことについては,後に地域集権の観点から詳細に論じますが,地域における公経済を駆動させるためには地方自治体の保険者機能とは切っても切り離せない関係にあるからです。次に,個人単位・所得比例の負担にすることが必要です。保険をどのような負担構成で支えるのかという問題について,基本的には被保険者の経済力に応じるというのが社会保険の基本原理だからです。
 一般に,民間保険はリスクに応じた保険料の構成となっています。その場合,クリームスキミングとか逆選択とかいわれる現象が起きることが知られています。すなわち,保険を必要としている人ほど保険に入れず,保険を必要としない人ほど保険に入れるという現象です。この問題をクリアーするために生み出されたのが社会保険であると考えることができます。
 だからこそ,社会保険ではリスクに応じた負担ではなく,負担能力に応じた保険料にする必要があるわけです。現在ある均等に支払っている保険料の部分は,大幅に縮小させるか,なくしてしまった方がよいと思います。保険料は給与所得にかけられざるを得ません。原則は雇用者と被雇用者の折半となります。雇用者は,労働力を利用する責任として,保険料を負担するというごく普通の考え方に依ります。
 しかし,所得比例を貫徹させた保険料構造はいくつかの問題を生じさせることが知られています。一つには,自営業者の問題です。自営業者は使用者でもあり被用者でもあるから,見た目の保険料が倍になってしまいます。そこで,自営業者の保険料はたとえば75%にする必要があると思います。このことは,資本からの収入に対してどのように負担してもらうか,という問題を端的にあらわしています。
 たとえば,高所得層はその収入のほとんどを資本所得によって得ています。つまり,高所得層ほど,保険料を払わなくてよいという構造にならざるを得ないわけです。また,資本所得がそれほどなくても,マハラジャのように莫大な財産を持っている場合も,保険料を支払わなくてよいということになります。このことは,公平な社会保険制度を築く上での大きな障害になってしまいます。
 とはいえ,社会保険料の徴収において,この限界を突破することはできないと考えています。だから,税制において労働に対する所得税よりも資本所得税を高くするとか,財産に対して課税するとかいった工夫が必要となってきます。ちなみに,前者は英国の例で,後者はオランダの例です。最良の社会保険を考える上では,他の税制で補完するという視点がどうしても必要なのです。
 さらに,皆保険を徹底させるということは,絶対です。皆保険ということは,たとえば子どもや生活保護者においても,同じ制度でやってもらうということです。特別な措置が必要な場合は,現在と同じように自治体の裁量でやればよい。いわゆる,上乗せ横出しといわれる財源措置です。後は医療保険に関しては,充分に医療サービスを提供できる点数改正はどうしても必要になってきます。
 このことについては,前にも書いたので深く立ち入りませんが,とても重要なポイントであります。最後に,窓口の負担割合についても検討する必要があると思います。もともと1割負担だったのを,3割にしたのは単に財政的問題からです。そうはいっても,窓口負担は少ないほうがよいにきまってます。だから,後期高齢者においては1割にしているわけです。ここでは,具体的な窓口負担の割合まで突っ込んで議論はしません。しかし,窓口負担の増加は,公経済を抑制するための方策であったことを知るべきです。それゆえ,公経済を機能させ,医療従事者を増やし,産業として成長させるためには負担の引き下げは検討してもよいということを念頭に置くべきではないでしょうか。
 介護保険についても,同様に議論することができます。まず必要なことは,やはり保険の一元化でありましょう。地域ごとの保険料の格差をなくすべきだということです。しかし,リスクと費用を大規模にシェアすると,次のような問題が生じる可能性があります。つまり,健康に地域ぐるみで気を使っているからこそ支出が少ないわけで,その利益は保険料の引き下げという形でその地域が享受すべきではないのか,という疑問です。確かに,そのような議論は一面では正しいと思います。
 しかし,問題はだれもが本当は健康になりたいはずだということです。他の地域と比較して健康な人が多いのに,さらに金銭面でもそれを評価しろというのはがめつくないだろうか,と私は考えます。たとえば,健康な人が多い家族には,税金を減らしてあげたほうがよいという論理は成り立つのでしょうか。もちろん,成り立ちません。また,その逆も成り立たないと思います。
 ただただ,所得に応じた負担というのが正当だろうと考えています。もっとも,介護保険に関しては自治体の負担も大きいわけですから,その地域の財政に与える影響は小さいわけではありません。それならば,なおさら保険料は一元化が望ましいのではないでしょうか。
 介護保険においても,保険料の所得比例化が必要となります。もっとも,前述の通り介護保険は今でも充分に所得比例的ではありますが。しかし介護保険の場合,それ以上に大切なのは被保険者枠の拡大でありましょう。現在は介護保険第1号者被保険者が65歳以上,第2号車が40歳以上65歳未満ということになっていますが,これでは社会全体でリスク・コストを分かち合うことにはなりません。みんなで支えるためには,所得があれば年齢にかかわらず被用者となる,という構造にする必要があるでしょう。
 最後に,社会保険と消費税の関係についても議論しておきましょう。もしも,消費税によって財源を確保するならば,それは社会保険財政の赤字を埋めるために使ってはならないと思います。これまで議論してきた社会保険の構造は,その保険その保険それぞれで支出と収入が一致するように比例保険料が決められなければならないということです。ここで,税金を投入してしまっているのが現在の制度の欠点なのである。
 税金を投入したとたん,受益と負担の関係が見えなくなってしまう。それでは,なにが適切な給付水準なのか分からなくなってしまうのです。負担と受益の関係が見えなくなれば,保険の給付水準についても,保険料の負担水準についても,全国民的に意思決定することができなくなってしまうのです。そしてそれは,公経済の麻痺を意味することになってしまうのです。
 だからこそ,消費税を上げるならばその税収は地方政府が供給する保育・教育・福祉の分野を拡充するために利用するべきでありましょう。医療介護分野への追加の,独自の政策の財源とするべきでしょう。環境エネルギーやインフラ,地域活性化の原資とするべきでしょう。しかし,社会保険を立て直したとしても直ちに消費税を増税してもよいということにはなりません。
 社会保険は低所得層にとても負担が大きく,よく言われているように消費税もそうだからです。公平な負担の在り方が公経済の駆動の条件であるならば,このような負担の在り方には賛成できません。そのためには,所得税改革とともに考えざるを得ないということです。この後に,最後にして最大の社会保険である年金の制度改革について詳述し,税制改革についても言及しようと思います。

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AIそうちゃん