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2011-03-28

東日本大震災 報告4 ~患者搬送と災害医療のまとめ~

【もう一つの活動】
いわき共立病院は、いわき市34万人の命を守る最後の砦ともいえる中核病院です。沿岸部ではないため津波の被害は最小限で、震災直後から他の病院や診療所が被害を受けた後もなんとか救急を受け入れていました。救急救命センター長の小山先生は2週間ぶっ通しで泊まり込んで診療をしていました。
しかし、救急患者が増えて、入院患者が増えても、ベッドの数や病院が大きくなるわけもなく、スタッフも増えるわけではありません。私が入った震災後1週間で限界に近づいていました。
このまま共立病院に入院患者さんが留まり続けることは、なによりその患者さんの為にならないと考えました。勿論、住み慣れた土地を離れるのは、誰しも嫌ですが、非常事態ですから、患者さんやご家族が希望すれば、他の地域で医療資源も十分ある中で入院治療を継続した方が良いのではないかと共立病院と話しあい結論付けました。
そこで受け入れ病院と医師、そして搬送方法の模索を始めました。
私は、東京の仲間の医師たちに連絡をとり、入院患者さんを一時的に関東で預かってくれないかをお願いしました。また、大きな問題はいわき市から関東に重症の患者さんをどう搬送するかです。救急車は市内で手一杯、通常の車では重症の患者さんが関東まで耐えられるかを考えると難しい。運べるわけがないと批判する方もいらっしゃいました。
しかし、ここで搬送しなければ、病院はパンクします。そこで方々に連絡したところ、方法が見つかりました!
自衛隊のヘリです。私は、5-6年ほど前からドクターヘリの推進活動をしていますが、やはりヘリコプターがここでも解決策となると、感慨深いものを感じます。
そうしているうちに受け入れ病院も決まりました。千葉県の亀田総合病院です。
神経難病で人工呼吸器をつけている患者さん十数名を搬送することが決まりました。また、東北大学も応じてくれ、多くの重症患者さんを後方搬送することができました。
これによって、共立病院は、次から次へとやってくる急患や救急車に集中ができます。
ALL JAPANで東北を支える、まさに体現した出来事でした。
その後も共立病院とは連絡をとりながら、必要に応じて対応していきます。
【提案】
また、同様の事が要介護者にも言えます。介護施設や老人ホームも当然ですが被災しています。日ごろから介護が必要な方だけでなく、普段は元気な方でも避難生活が続くことで認知症が進んだり、寝たきりになってしまう方も出てきます。
こういう方も、その場で頑張れる人は良いのですが、それが難しい方については後方搬送を推進すべきです。
現地に必要な薬剤や人を送ると同時に、逆に患者さんを迎える、この両方向の支援が大災害時には必要です。
今回は、私の人のご縁で対応しましたが、やはり基本的には、医療システムとして確立すべきことでしょう。今後に大きな宿題をいただきました。
そして、医療システムについて実感したことが、もう一つあります。
現在、災害救援の医療支援の代表例で、D-MATというものがあります。これは震災発生後72時間以内に現地で救命活動を行うチームで、病院ごとに医師・看護師・一般スタッフ(薬剤師や技師、事務職も)が編成され、現地に急行するというものがあります。
災害直後では、確かにこれは重要ですが、災害後の問題は、すぐに片付くものではありません。長く続く避難所生活や衛生問題、感染症の拡大など、中長期的な問題も数多く、これらに対して現地の医療者や支援に入る有志ボランティアだけに任せるというのは、あまりにも非現実的です。
医療システムとして、継続的な支援を行うシステムが必要です。今回、私たちはJ-MATという日本医師会の提案するシステムの支援で入りました。
それは私が行ったような避難所の診療や中核病院を支える診療、支援を継続的に行うものです。
私が入ったのは、いわき市でしたが、実はほかの地域は別の県の医療チームが入ることになっており、全国の医師が代わりばんこに現地に入ることで継続支援ができる体制をしっかり構築することは必要不可欠です。
実際、愛知県では、私たちの第1陣を皮切りに、現在まで第5陣、その後もずっと継続します。
また、継続支援を現地で有効に機能させることも重要です。いわき市のような大きな市では、愛知県以外にも富山県などが支援に入ってくれました。その時に支援者がバラバラに活動したのでは意味が薄れてしまいますし、現地も混乱する中でかえって迷惑となってしまいます。
そこで、先ほど紹介したような情報共有の場が必要です。これも現地でコーディネーターとなる人がいなくてはなりません。今回はたまたま石井正三先生や木田先生という現地の医師会の先生が大きな力を発揮してくれましたが、すべての地域がそのような人材に溢れているわけではないでしょう。
災害医療衛生コーディネーターの育成が必要不可欠です。
災害医療は、厚生労働省の4疾病5事業という重点政策の一つですが、今回の教訓を胸に、これからまだまだ続く震災復興、そして今後の震災時にもっと良い医療体制や支援体制が組めるように、一層努力し続けたいと思います。

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