○治療を受ける場所を選ぶ権利
どこで治療を受けたいか。これまで入院や外来が治療を受ける場所の主体でした。入院すると治療や身の回りの世話は適切に行われますが,必ずしも生活する上で快適とは言えません。終末期にどこで最後と迎えたいか,という質問に対して,静かに家で最期を迎えたいと希望する国民の声があります。私は,最後に治療を受けることのできる場所は国民が選べるようにするべきだと思います。
病院を希望すれば病院のベッドを用意し,ホスピスが良ければホスピスを,介護施設が良ければ介護施設を,家が良ければ家で最期を迎えることができるようにする。病院,ホスピス,介護施設については今後も拡充を図るとして,現在,最も難しいのが家で最期を迎えることです。家に居ながら適切な医療を受けることができるかどうかが重要です。そのためには在宅医療を推進する必要がります。
○在宅医療の推進
国民は家族の理解が得られるのであれば在宅での死亡を望んでいますが,家族の理解が得られにくい要因の中には家庭な介護力もさることながら,日常的な治療や急変時の対応も含まれると思います。そこで日常的な治療を家で受けたり,急変時に医学的な対応が可能となるようにするために,訪問診療,訪問看護をはじめとした在宅医療を推進する必要があります。
また,時に一時的に健康状態が悪化した場合や家族の介護負担を軽減するために,医療機関に一時的に入院可能とする体制整備も必要です。人生の最後に,自分の希望がかなえられる医療・介護制度の整備。これこそ住民が自ら関わり,作り上げていく医療・介護制度に必要な視点です。
○医療・介護従事者の労働環境の改善
まずは現在の医療従事者,介護従事者の能力を最大限生かすことが重要です。そのためには労働環境の改善が最重要課題です。医療・介護従事者が安心して子育てをしながらでも働くことのできる労働環境を作ります。極論を言えば,子供を持つ女性医師が,多忙とされている外科医や救急医,産科医として,バリバリ仕事をしながら子育てができる環境づくりを考え,それを全ての医療従事者,介護従事者に当てはめたいと思います。
具体的には,子育て中のすべての医療・介護従事者に対して,育児休暇制度,復職サポート制度,勤務時間短縮制度,フレックスタイム制,24時間対応可能な保育所の整備,ベビーシッター派遣制度を整備します。医療従事者,介護従事者は家庭の状況,本人の希望に合わせて選択可能とします。この制度は女性のみならず,男性も利用可能とします。医療・介護従事者には,仕事の内容,子育てに男女の差はありません。働きやすい環境を作れば,単位時間当たりの労働生産性は上がり,また,全国から医療・介護従事者が集まってくることから,質,量とも労働生産性は充実すると思われます。
○協議会による地域医局の創設
中部地方においても医師の地域偏在,診療科偏在は顕著です。そこで医師の派遣機能を持つ地域医局を医師,住民からなる協議会が設置し,各医師のキャリアパスを考えた上で責任を持って派遣することを提案します。地域医局には地域医師会,医学部のかかわりが重要です。地域住民の健康を守るために,それぞれの医師が果たすべき役割を十分に議論してもらい,適切な医療提供体制を考えていける環境づくりが重要です。
また,現在,禁止されている公務員医師の兼業を許可します。兼業の禁止の考えは,副業が本業に悪影響を与えるということだと思われるので,悪影響がない限りにおいて兼業を認めることとします。これにより若手の医師やそれほど日常業務が多忙ではない医師が休日や夜間に医師が不足している地域にアルバイトに行くことで,医師にとっては収入の増,医師不足の地域においては医師の確保と双方にメリットがあると思われます。
○三河地方に医科大学の創設
医師の地域偏在,診療科偏在を解消する方法をいくつか提案したが,最後に三河の地に医科大学の創設を提案します。現在,県内の医師の地域偏在,診療科偏在解消の切り札として,医学部に地域枠を設定し,奨学金を支払うことで将来にわたって地域医療,特定の診療科に関わる医学生を確保しようとしています。地域枠の意義は理解できるのですが,これらの医学生はほかの医学生と交じって教育を受けるため,地域医療に特化した教育が提供されているのか疑問です。私は地域医療に貢献する医師を養成するためには,むしろそのための医科大学を創設するべきであると考えます。
一方で医科大学を医師が不足している地域に新設すると,医科大学における教育には100~200名近い教員が必要であり,地域医療の現場から医師を引きはがすこととなり,医師の地域偏在の問題が加速する可能性があります。医科大学の創設には多数の人材や多額の費用がかかると思われがちですが,私は三河の地にある既存の大規模病院を活用することを提案します。教育に必要な人材は病院内の医師をそのまま登用すると同時に,名古屋都市圏の医師も積極的に登用します。名古屋都市圏の医師は全国的にみても数,質ともに恵まれています。また,費用については既存の大規模病院を活用すれば,いくつかの教室・研究室の新設で十分に対応可能です。
また,可能な限り早期に臨床現場で活躍可能な人材を育成するために,入学資格を既存の大学を卒業した学士に限定し,4年間の医学教育とします。入学生も既存の大学を卒業しており,中には社会人経験者も多数いると思われますので,多様な価値観を容認する学風が生まれると思われます。卒業後は地域住民,医師からなる協議会が本人の希望,キャリアパスを考慮の上,勤務先が決定されることとなります。毎年,60~100名近くの卒業生が医師の不足する地域,不足する診療科で働くこととなれば中部における医師偏在は解消され,地域住民に理想的な医療が提供できるようになると考えます。
・医療・介護分野に必要な政策はあらゆる手段で実現する
医療,介護分野に関して,現在の制度をより良いものとするために,常に改革が必要です。そこにはできない理由は必要ありません。協議会で議論を行い,制度変更の必要があれば法律,政令で定めます。場合によっては,特区申請,条例制定で対応可能かもしれません。また,財源が必要であれば確保します。医療,介護分野では地域で議論を行い,地域で決定する地域主権を実現します。
○医療・介護の拡大は,雇用を創出する
医療・介護分野は経済的なお荷物と思われがちですが,医療・介護の経済波及効果は,他の産業の平均や公共事業を上回っているといわれています。そのため,過剰な抑制は図るべきではありません。ただし,経済波及効果が大きいからと言って,やみくもに医療費・介護給付費を増大させて良い訳でもありません。なぜなら,医療費,介護給付費の増大は国民の負担の増大を招き,国民の経済的自由,財政の自由を奪います。そのため,費用対効果,効率性の視点は常に必要で,医学的な根拠も併せて,常に科学的な思考が必要です。
○根拠に基づく医療・介護政策
政策づくりには科学的な視点が必要です。場合によっては根拠に基づく政策作りが重要です。とはいえ,根拠がないことをやらないことの理由にしてはいけません。近年,医療の世界では「エビデンスに基づく医療」の重要性がたびたび説かれていますが,逆に「エビデンスがなければやってはいけない」といった間違った考え方に陥ることがあります。誰かが仮説を立て,実際にやってみなければ根拠となるデータを集めることができません。
仮説を立てて実施するに当たっては時として度胸と勘が必要です。政策の分野においても同様で,基本的には科学的な根拠を大切にしつつ,ただし,時と場合においては大胆な提案も必要と考えています。私には,多くの仲間がいます。医師,行政官,政治家,専門家,そして住民の皆さん。私はこれらの方々を大切にし,様々な情報を得ると共に,常に議論をし,政治家として着実に医療・介護政策を前に進めていきたいと思います。