これまで,私なりの日本経済の問題点を明らかにしてきました。問題がクリアーになれば解決への道筋もわかりやすいものです。私は医師ですし,医療に携わってきたわけだから,医療政策に一家言あることは当たり前のことかもしれません。しかし,それだけではいけないと思い,さまざまな政策分野について勉強してきました。それが,政治家を目指すものとしての責任だと考えたからですし,新しいことを知ることは,日本のさらなる可能性を知ることだったからです。
ここで,これまでの日本経済に対する戦略をまとめておこうと思います。安心安全の創出,次世代の育成,需要創造,家族の回復と労働力率のアップ,卒原発,そして自然への回帰。もちろん,国際的な競争力を維持することも必要だということでした。これらの問題は,一人当たりGDPを増加させるための経済戦略といってもよいということでした。
ここで,これらの分析をさらにクリアーにするために二つの概念を導入しようと思います。それは,経済は私経済と公経済の両輪によって成り立っているということです。市場経済と財政と言い換えてもよいと思います。私経済には輸出を維持するために高い技術水準と世界的なウォンツに対応する高付加価値な製品を生み出す戦略が必要となってきます。教育の議論で指摘したような人材育成のための制度改革が基礎となっていますが,それを実現させるためには産学連携や労働市場の規制強化が必要です。分野によっては,規制緩和が必要な場合もあります。
もうひとつの公経済の問題は,介護で生計をたてられるようにしたり,医療従事者ももっと増やしたり,保育や教育についても人員を増やすことが中心となってきます。とはいえ,無い袖は振れぬというのも事実です。あえて言うなれば,増税という痛みを伴う改革が必要となってきます。しかし,この痛みは「聖域なき構造改革」とは根本的に違う,即効性のある改革です。
この先にしか,成熟した人口減少社会は存在しないのだと考えています。そのためには,増税の国民的合意が可能かどうか考えなければなりません。三党合意に基づいて,消費税が増税されることになりました。それは,たしかに痛みを伴う改革です。しかし,消費税増税もやむなしという意見も多いですが,根本的には消費税しか念頭に置かないのは間違っています。後述するように社会保険の再建と地方財源としての消費税,格差是正の所得税改革が三位一体となって,公経済の活性化が可能となるからです。
政府の大きさといわれるものは,社会保障の充実度です。もちろん,いわゆる「ムダ」もたくさんあるのですが,議論のすり替えは良くありません。日本では公務員の数も給与も諸外国と比べれば高いとはいえないからです。
さらに,私経済にも公経済にも共通する問題として,地域を基本とする社会・経済構造の創出があります。医療・介護・教育の運営を住民の手にゆだねることの重要性については議論してきましたが,経済運営を住民の手で行うことも日本経済の復活にとって不可欠であります。多様な地域で多様な人材が排出されることが高付加価値な製品を生み出す源泉になるだけでなく,それぞれの地域で意思決定をすることが公経済の発展にも欠かせないからなのです。
本当に経済の両輪は私経済と公経済なのかという疑問もございましょう。次の図をご覧ください。OECD諸国の政府の歳入と実質GDP成長率の関係をプロットしたものです。公経済の大きさとしては歳出でみたほうが正しいのですが,「租税負担が経済成長を阻害する」とか「財政赤字が経済成長に寄与する」という意見に対するためにあえて歳入で見てみました。これらの意見は部分を見れば正しいのですが,果たして全体でみてもそうなのか怪しいと考えています。ちなみに,左下に突出して低いのが日本です。
政府の歳入と実質GDP成長率の関係では,両者にはほとんど関係がありません。グラフはわずかに右下がりですから,租税負担は経済成長をわずかに阻害しているように見えます。ただし,租税負担率45%まではほとんど右上がりで(多項式で相関をとるとよく見えます),租税負担が高いほど経済成長率が上がるという関係が見て取れます。
政府の収入と一人当たり実質GDP成長率の関係にすればより鮮明に分かります。歳入規模が大きければ大きいほど,一人当たりGDP成長率は高くなります。このことから,私経済と公経済の両輪論は嘘ではないことが分かります。ただし,勘違いしてはいけないのはこれは単純な因果関係ではないということです。増税すれば経済成長するのではなく,ニーズを満たして,付加価値を高めて(つまりサービス業では高い給与水準を実現して),労働力率を高めて,教育を充実させ,家族を回復し,自然を大切にすることが結果として経済成長につながっていると考えるべきなのです。
政府の歳入と実質GDP成長率の関係(2001-2010)
政府の歳入と一人当たり実質GDP成長率の関係(2001-2010)