果たしてこうした抜本的な税源・権限移譲は可能なのか、という疑問がわいてくるかもしれません。ここでは、日本が戦後にモデルとした中央集権国家であるフランスの事例を見ながらその実現可能性を探りたいと思います。1982年、ミッテラン政権下において地方分権法が制定され、中央政府の行政区画だった州(レジオン)を地方自治体と改め、また2003年の憲法改正によって権限・財源・人間の移譲を行いました。
以上の二度にわたる地方分権改革によって、中央集権国家体制下において地方分権改革を行ったのである。「第一次地方分権改革(1982年)」においては、州の設置とともに国税であった自動車登録税と、自動車税や土地公示税を州税と県税へとそれぞれ移譲し、またこれまで地方自治体の自治の喪失につながっていた用途の特定されていた特定補助金を整理し、日本における交付税にあたる一般補助金へと改めるという改革を行いました。
「第二次地方分権改革(2003年)」においては、二重行政の防止のために、各行政における役割を明確化し権限の配分を行い、社会福祉に関しては県が担い、職業訓練に関しては州が担うということで権限の集約化を進めました。そして憲法にはそれら権限移譲に合わせた財政補償も明記され、権限移譲に伴う負担を国が必ず補償すると決められたのです。例えば、2004年に県に移譲された最低所得保障制度(RMI)の財政補償として、国は石油製品国内消費税(TIPP)の一部を地方贈与税として税源移譲しました。
それ以降も、職業訓練に関する権限の移譲に伴いTIPPの一部を国から州へと移譲し、社会福祉関連の権限移譲に伴い国から県へ保険契約特別税の一部を国から県へ移譲しました。以下の図表は、2005年以降の権限・財源移譲をまとめたものです。結果として、次のグラフが表すように、フランスの地方政府は、自主財源比率を下げることなく歳入の自治を確立した上で、地方のニーズを満たすような政策を実施してきたのです。日本の『地方財政白書』のデータを使って、同じように自主財源比率を計算すると47.6%となり、フランスの地方政府より低いことが明らかです。
しかし移譲を行ったのは、権限とそれに伴う財源のみではありません。そうです、もちろん人間の移管です。中学校や高等学校の学校施設の現業的な業務を行う技能労務職員(TOS職員)と、国道・空港・港湾などの公共インフラに関わる人員が身分移管されることとなりました。
その際、従来の国家公務員の身分のままで期限の定めがないまま地方公共団体へ出向するという形か、対応する地方公共団体の公務員として身分移管を行うという形を取るかの選択を各自で行えるようにして、身分移管を円滑に行えるようにしました。手当制度により地方公務員になるほうが有利である事情もあって、TOS職員の80~85%が地方公務員への編入を選択することとなりました。また、公共インフラ関連の身分移管に関しては、2万6815人の内、1万9203人が選択権を施行し、その内の約80%にも及ぶ職員が地方公務員へと編入しました。
まず、学ぶべきことはグローバル化に対応するための地域住民のニーズを満たす方法として地方自治体、中間政府への権限と税源の移譲が中央集権国家においても可能であったことが挙げられます。これは、EUという超国家体制の中でグローバル化の波にうまく乗りつつ、一方で地域住民の生活を保障するために、地方分権というローカライズを行うという戦略、ということが言えるでしょう。
この姿勢は、グローバル化や人口減少社会への対応として、地域のニーズを満たしていくのが至上命題である日本が参考にするべきものです。ただし、フランスにおいても多くの問題を未だに抱えているのも事実です。この過去30年に及ぶ大規模な地方分権改革の当初の目的は、第一に州の権限の強化であったのにも関わらず、蓋を開けてみると、県の権限・財源の強化となってしまったのです。
これは、フランスの下院議員577人の中で、県の議長及び議員を兼任している議員が198人もいる一方、州の議長及び議員は92人であり、県の意見が通りやすい状況となっていることが理由として挙げることが出来ると思います。逆に言うと、こうした兼職制度のおかげで、大胆な地方分権改革も行えたのも事実でしょう。驚くべきことに、フランスの国会議員の多くは地方自治体の議員も兼務しているのです。このような政治制度の結果、本来の目的を果たせない地方分権改革になってしまいました。
このように、州ではなくは県の強化が行われた結果、権限の重複や責任の所在が不明確になるという事態が起こっており、二重行政問題やそれによる重層構造の問題点が指摘されています。以上の問題解決のため、現在バラデュール委員会による地方自治制度改革が行われています。その改革の概要は、州及び県の自主的再編の促進、市町村における広域連合体の促進、及びそれに伴う地方財政制度改革や選挙制度改革などです。
このように、一見地方分権改革が進んでいるように見えるフランスにおいても問題は山積しており、その苦悩や葛藤の過程が現在の制度改革にも見受けられます。この中央集権国家フランスにおける改革の過程を参考にしながら、私なりの改革の道筋を示したいと思います。
フランスの税収及び使用料・手数料の推移